「アンチヒーロー」は本当の悪とは一体何なのか考えさせられるドラマ
2024年4月14日に放映されたTBS系日曜劇場ドラマ「アンチヒーロー」。
主演の長谷川博己は、有罪判決された被告人を無罪にする弁護士役を演じています。初めからシリアスな雰囲気で、コメディ要素はありません。また、モブキャラ(言い方すみません)によるどんでん返しが多すぎて、各所で「え?ちょ…待って」とツッコミが入ること間違いなしです。
アンチヒーローで注目すべきは「真犯人」ではなく「何が悪か」ということ
このドラマのキャッチコピーに「正しいことが正義か、間違ったことが悪か」とあります。作中でも「正義か、悪か」と問われるシーンが多々出てきます。
誰かを守るために刃を向けたら、悪になるのか。尊厳を傷つけられてまで、黙って耐えなければいけないのか。
人は何に対して耐え難い痛みを感じ、そして間違いに気づいたときにどんな行動をとるのか。そんな答えのない答えに立ち向かう主人公・明墨正樹の足掻きながらも戦う姿に、胸を打たれる作品です。
「アンチヒーロー」見どころ!感想とあらすじ
以下、ネタバレを含みますので、視聴前の人は注意してください。
主人公・明墨「世界では一度罪を犯した人間を許す気なんか、ない」
代表弁護士を務める明墨正樹(演:長谷川博己)が、今作の主人公。
収監されている被告人に対して「あなたを無罪にして差し上げます」というインパクトのあるセリフを吐きます。冒頭でこのセリフを聞くと「ああ、冤罪に苦しむ人を助けているヒーローものだな」と勘違いしてしまいますが、中には冤罪でないケースもあります。
視聴中に「罪のある人を無罪にしちゃって、TV的にいいの?」とツッコミたくなると思いますが、そもそも何を持って「悪」であり「罪」なのか、ということが今作のテーマでもあります。
赤峰柊斗「法に携わる人間が、人々の信頼を背負っていることを忘れてはダメです」
法廷ドラマに欠かせないのが、熱血正義感を持ちながらも経験不足の新人弁護士というポジション。赤峰柊斗(演:北村匠海)は、スカウトされて明墨法律事務所にやってきますが、初めから明墨と対立します。
明墨は無罪獲得のために、書類や証拠を偽造することを躊躇いません。時に、証拠を隠蔽しようともします。
そんな明墨に対して、赤峰柊斗は「先生の正義がどこにあるのか、僕にはわかりません」と訴えます。しかし、明墨は赤峰柊斗にこう問います。
「例えば、目の前でナイフを持った男に大切な家族の命が奪われそうになっている。こっちは手にナイフを持っていたのなら、君はどうする?」
紫ノ宮飛鳥「あなた、バカなの?」
正義感あふれる赤峰に対して、現実を教えていくのが先輩弁護士の紫ノ宮飛鳥(演:堀田真由)。
紫ノ宮飛鳥は、明墨の命令に忠実に従い、変装やら潜入捜査やら何でもやってのけちゃいます。明墨の動向に疑問を持つ赤峰に対して厳しい指導を行うポジションです。
ネタバレしますが、この紫ノ宮飛鳥は「刑事である父親が過去に事件を隠蔽した疑いがある」と疑念を抱き、密かに捜査を続けています。この事件が、アンチヒーローの大きなテーマでもあります。
伊達原泰輔「この社会は一度でも道を踏み外した者に、二度とチャンスを与えない」
明墨は昔、検事として活躍していました。
検事時代に上司だったのが、伊達原泰輔(演:野村萬斎)です。すごくいい役してます。伊達原泰輔は、明墨の敵役というポジション。ただ、悪意があって邪魔をするというわけではなく、彼なりの正義に従い行動した結果、明墨とぶつかってしまうという感じでしょうか。
ここもネタバレですが、伊達原泰輔はとある事件に関わりましたが、証拠を隠蔽しようとします。その結果冤罪を招いてしまいましたが、伊達原泰輔の正義を貫いた結果であるとも言えます。
緑川歩佳「十人の真犯人を逃すとも 一人の無辜を罰する勿れ」
では、たとえ正義を貫くためであったとしても、無実の人間を裁いてもいいのでしょうか。
この問いに答えたのが、明墨の元同僚検事の緑川歩佳(演:木村佳乃)です。「十人の真犯人を逃すとも 一人の無辜を罰する勿れ」とは、現実にある法格言のひとつで、刑事司法の基本原則と言われています。
「たとえ10人の真犯人を逃したとしても、1人の無実の人を処罰してはならない」という意味で、今作品の裏テーマでもある言葉です。
アンチヒーローでは、「何が悪で罪なのか」をテーマにしていますが、例え何が悪だったとしても無実の人を有罪にしてはいけない、という教えではないでしょうか。
ただ、緑川さんは誰に向けてこのセリフを言っているのか。ここがアンチヒーローの見どころの一つでもあります。
まとめ
アンチヒーローは、ハッピーエンドではなく、考えさせられる部分が大きいドラマです。角度を変えれば、善にも悪にもなり得るという教えでもあるのかもしれません。
個人的には、緑川さんの最終回の言葉にグッときて、同じシーンを何度も再生してしまいました。
「お前が悪者だ!」とスッキリ終わるわけではないので、ちょっとモヤっとするかもしれませんが、社会悪のようなものを観てみたい!と思う人におすすめしたい作品です。